脳外科前教授の最終講義
脳外科前教授は主に脳腫瘍の研究をされていた先生で、最終講義はその先生の研究を数十年にわたって振り返る、人と脳腫瘍の戦いの歴史ともいえるものでした。
現在も、脳腫瘍はほぼ完治の望めないがんの一つで、先生は、いわば戦の真っ最中に指揮官の座を降りる形での退官となりました。
講義後最後の質問として、准教授の先生は非常に難しい質問をされました。
「先生は、人類があと何年で脳腫瘍を克服できるとお考えでしょうか?」
そうだなあ、といつものように穏やかに言って少し黙った後、教授は顔を歪めました。
「あと15年、あれば、きっと。」
涙声で教授が仰ったあの日から既に2年。
あと13年、私が中堅の脳外科医になる頃には、脳腫瘍は他のがんと同じように、治せる病気になっているでしょうか。
その戦いに、私も少しは貢献できているのでしょうか。